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大阪高等裁判所 昭和46年(ラ)127号 決定

抗告人 夏目ふさ(仮名)

相手方 米沢文夫(仮名)

主文

原審判を次のとおり変更する。

抗告人は相手方に対し別紙目録記載の各不動産につき財産分与を原因とし持分四分の一の所有権移転登記手続をせよ。

抗告人と相手方はこの裁判確定の日から五年間たがいに前項記載の各不動産の分割を請求してはならない。

抗告人は相手方に対し、昭和四三年一〇月一六日以降前項の共有不動産分割禁止期間の終期までの間、毎月二万円あて毎月末限り支払え。

理由

本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。本件を京都地方裁判所に差し戻す」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

当裁判所の認定する事実関係は、「抗告人名義のアパートは通常各部屋全部に入居していることはなく、従つて、平均家賃収益は月額約一三万円である」ことを附加するほか、原審判理由の(裁判所の判断)(1)ないし(3)と同じであるから、これを引用する。当審での資料のうち、右認定と異なる部分はこれを採用しない。

右事実によれば、別紙目録記載の各不動産(以下本件不動産という)はいずれも実質上、抗告人と相手方の共有に属するものであつて、離婚とともにこれを清算して抗告人は相手方に対し財産分与をすべきものである。そして、抗告人の支払能力に鑑みるときは、一時に多額の金銭支払いを命ずることは相当でなく、抗告人において本件各不動産を管理運営してきたこと、離婚に至つた原因は相手方に女性関係が生じたことによるものであるが、相手方から抗告人に対し慰藉料などの金品の支払いはなされていないこと、相手方は自分の意思で抗告人と別居して本件各不動産の使用収益を放棄し、その管理収益を抗告人に委ねていたが、その後生活困難となるに及んでその使用収益の回復分配ないし不動産所有権そのものの分配を抗告人に要求するに至つたものであることその他諸般の事情を考慮するならば、抗告人は相手方に対し本件不動産の所有権持分四分の一の財産分与をすべきであり、その旨の所有権移転登記手続をなすべき義務がある。ただし、本件不動産をただちに分割することは、抗告人が唯一の収入源であるアパート収益を失い、生計の困難を来たす結果になるおそれもあり、相当ではないから、この裁判確定の日から五年間は、抗告人と相手方はたがいに本件不動産の分割請求をしてはならないと定むるのが相当である。そして、右アパートの収益は、本件財産分与の調停申立前の分は相手方において前述のとおり放棄したものと認め、申立以後の分については、抗告人において労力を提供し、管理することにより得られるものであるから、この点を考慮すると、抗告人において相手方に対し、前記アパート経営による収益のうち前記共有持分割合より少い毎月二万円を本件財産分与の調停申立後である昭和四三年一〇月一六日以降前記共有不動産分割禁止期間の終期までの間、毎月末限り、支払うのが相当である。

以上の次第で、右判断と異なる原審判を変更することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 小北陽三)

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